買取に出したい車に不具合がある時、不具合箇所を申告すると査定額が減額されることを懸念して不具合を隠そうとする方がおられます。しかし、車を売却するときに不具合箇所の申告は必須です。
車の売却には契約不適合責任というものがあり、車の不具合を隠した状態で買取店へ売却して問題が発生すると、売買契約の解除や損害賠償請求が発生する可能性があります。不具合の申告は法的に定められているものであり、違反すると法的に罰せられるということです。多額の損害賠償を請求されたり、思いもよらない大問題に発展する可能性もあるため、不具合箇所がある場合はちゃんと申告しておきましょう。
この記事では、買取業者へ車を売却する際に発生するトラブルについてご紹介します。トラブルに発展しないよう売却主としての責任を果たすことはもちろん、買取業者をしっかりと選定して適切な売却に繋げましょう。
売却時には不具合箇所の申告が義務付けられている
車を売却する際、あなた(売却主)はその車の不具合箇所、故障箇所、修復箇所などを買取業者に説明する義務があります。これは法律的に定められているものであり、この説明を怠って車を売却した場合には法的な罰則があります。トラブルに発展した場合は売買契約の解除だけではなく、損害賠償請求を受ける可能性もあるため注意が必要。
契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)がある
このように売却する車の不具合箇所を申告する定めを契約不適合責任と言います。過去は瑕疵担保責任と呼ばれたものですが、令和2年4月1日の改正民法によって売主の責任が契約不適合責任に変更されました。この契約不適合責任というのは、売買契約の内容とは異なるものを売ってはいけないと定めている法律です。
旧名称は瑕疵担保責任。瑕疵とは欠点のことであり、売買契約をした対象である車に隠れた欠点があった時に、その欠点を担保しなければいけないという責任です。つまり、隠れた欠点があったとしても売主であるあなたがその責任を負いますよという意味です。
エンジンや駆動系に不具合があったり、事故を起こして修復した履歴があったり、本来は動くべき機能が正常に動作していないということを隠して買取業者へ売却した場合、契約不適合責任に違反したこととなり罰せられます。
不具合箇所、故障箇所、修復箇所等がある場合、買取業者へ売却する際にしっかりと説明しましょう。買取の際には買取業者から車の状態をヒアリングされることがあるため、その時に説明する必要があります。該当箇所のヒアリングがなかったとしても、契約時にはちゃんと申告しなければいけません。
車を売却する際に申告しなければいけないこと
買取業者に車を売却する場合に申告しなければいけないのは大きく分けて
申告が必要な箇所
- 不具合のある箇所
- 修復歴の有無
- 冠水(水没)歴の有無
- 走行メーターの交換履歴
- 純正部品が揃っているか
の5項目です。車そのものの査定に大きく影響する箇所であることはもちろん、その車の機能自体にも大きく影響するポイントであるためトラブルの元になる可能性が高いものです。こういった大事な箇所だからこそ査定額が下がることを懸念して、不具合箇所を隠して売却する方もいます。しかし、それは法律に違反している行為であることを認識しておきましょう。
不具合のある箇所とは
不具合箇所というのは意味合いが広いため、人によっては「それくらいは中古として常識の範囲内」と思われるかもしれません。しかし、あくまでも個人の認識の範囲ではなく、車そのものに不具合が発生しているかどうかで判断しなければいけません。具体的には
不具合箇所の例
- 走行時に足回りから異音がする
- エンジンが不安定
- 始動時にエンジンがかかりにくい
- ボディのキズ、凹み
- 塗装が剥がれている、日焼けしている
- ドア、トランクゲートなどの動作不良
- ナビが正常動作しない
- ライトが切れている、レンズにヒビや割れがある
- エアコン、パワーウィンドウ等の電気系統が正常動作しない
などが挙げられます。契約不適合責任にあたるような不具合というのは、通常使用で困るような不具合から、通常使用では気にならないような不具合まで幅広く含まれます。
ちょっとでも気になる不具合箇所については査定の際に査定スタッフの方へ申告しておきましょう。そこまで査定に大きく影響しない箇所であれば査定価格も下がらないでしょうし、隠していて後からバレると大きなトラブルにつながる可能性があります。事前にちゃんと自己申告しておけば印象も良く、スムーズに買取を進めることができます。
修復歴の有無とは
修復歴というと事故を起こした車を修理したことを指すように見えますが、厳密には「修理歴」と「修復歴」は違います。修理歴があったとしても査定に大きく影響しませんが、修復歴のある車は査定額が大幅に下がる傾向にあります。
修復歴というのは車の骨格部分に対して修復した履歴がある車のことを指します。車業界では事故を起こした車を事故車と呼ぶのではなく、大きな事故で車の大事な部分に損傷が起きた車のことを事故車と呼ぶのです。主にフレームやフロア(床)、ルーフパネル(天井)など、取り替えの効かない箇所が損傷していたり、修復を施していたりするものが事故車(修復歴あり)と呼ばれる部類に入ります。
事故車となる修復箇所
- フレーム
- フロア
- トランクフロア
- クロスメンバー
- ルーフパネル
- インサイドパネル
- ダッシュパネル
- ピラー
- ラジエーターコアサポート
このような箇所に対して修復した履歴(板金等で直した履歴)があると修復歴有りの車となります。車の大事な箇所を修復している状態になるため、走行に支障が出たり、車本体の寿命に影響したりします。修復歴というのは車そのものの価値を大きく下げる要因となります。
そういった修復歴があるにも関わらず、その内容を隠して車を売却した場合には契約不適合責任の対象となり、その後のトラブルが発生した時に損害賠償請求を受ける可能性があります。
修復歴がある場合、その旨を査定スタッフに伝えることはもちろん、書類等が残っているのであれば修復箇所が分かる書類も提出しましょう。修復箇所、修復度合いによって査定額も変わってくるため、内容がちゃんと分かる書類が必要です。
事故歴(修復歴)のある車を売却する方法については、こちらの記事でも詳しくご紹介しています。
水没(冠水)歴の有無とは
水没歴(冠水歴)というのは文字通り車体が水に浸かった事があるかどうかを指します。一般財団法人日本自動車査定協会によれば、水没していると判断されるかどうかは浸水の深さによります。フロア(床)の高さまで浸水している場合にその車は水没歴有りとなりますが、フロアまで浸水していなければ水がついても水没とはなりません。
水没歴のある車はエンジンルームやフレーム、フロアパネルなどが腐食している可能性があります。また、内部のファブリック部品など通常は水に濡れない箇所が濡れることにより、ボディ全体の腐食劣化が進んでしまいます。
特に海水で水没した車は塩水による腐食が酷くなります。東日本大震災の時には多くの車が水没しましたが、後からその水没(冠水歴)を隠して大量に車を売買した業者があるようで問題になっていました。
水没した車は外見だけではなかなか判断できないものです。ボディが汚れたりしただけなら綺麗に洗えば分からなくなりますが、内部を詳しく調べることによって水没しているかどうかはすぐに判断できます。一度でも浸水していると内側のボディやパーツに通常では無い腐食が見られるため、査定スタッフが見れば水没歴があるかどうかは分かります。
水没歴を申告せずに売却すると契約不適合責任による問題へ繋がります。もし売却する車に水没歴がある場合、査定の際にちゃんと伝えましょう。
走行メーターの交換履歴とは
車の買取価格を大きく左右する要素として、その車の走行距離が関係しています。走行距離の多い車は査定額が下がりやすく、走行距離の少ない(若い)車は査定額がアップしやすくなります。一般的に車の走行距離は走行メーターで確認するのですが、実はこのメーターを交換している車というのが存在します。
メーター自体の故障によって交換修理しているケースもありますが、中には走行距離が多くなっていることを理由に、新しいメーター(中古品)に交換している車があるのです。走行距離が10万キロを超えてしまい査定額が下がるため、同車種の走行距離5万キロほどのメーターに換装するようなケース。
交換した理由はどうであれ、走行距離がわかるメーターの交換は申告義務があります。さらに、メーターを交換した車はその履歴がわかるように車検証(整備手帳)に履歴を記載しなければならず、走行距離計交換歴車シールを運転席側ピラーに貼る事が義務付けられているのです。
実はメーターの交換履歴というのは専門的な整備士が調べれば分かってしまうものです。メーター交換が怪しい車の場合、買取査定時にチェックされます。買取査定額をアップしてもらえると思ってメーターの交換履歴を隠して買取に出してしまうと、契約不適合責任に問われる場合もあるので要注意。そういった履歴もちゃんと申告しておきましょう。
純正部品が揃っているか
カスタムカーを売却しようと考えている方もおられるでしょう。車高を下げる車高調が付いていたり、エアロパーツが付いていたり、マフラーが交換されていたり…。
そういったカスタムカーは査定時にマイナス評価を受けることが多くなります。カスタムされた車両は好みが分かれるため、中古車として購入してもらう際になかなか買い手が見つからない可能性がありますし、カスタムしているが故に不具合を起こす可能性もあるからです。
社外部品でカスタムしている車両の場合、純正部品が揃っているかどうかも査定スタッフに伝えておきましょう。純正部品が付属していれば査定額を付けてもらえるかもしれませんが、純正部品が揃っていない場合は不適合ということで査定額が付かないケースもあります。
可能であれば純正状態に戻してから売却する事がおすすめですが、難しい場合には純正部品を車両と一緒に売却しましょう。純正部品を含めた査定をしてもらえれば、そこまで査定価格に影響なく買い取ってもらえるはずです。
その場合、ちゃんと申告した純正部品を不足なく受け渡す事が必要です。純正部品があると申告していながら、実は揃っていなかったりすると契約不適合責任に問われて売買契約自体を解除されてしまったり、買取価格が大幅に下げられてしまう可能性があります。
契約不適合責任に問われないように準備すべきこと
以上のような車の不具合や故障箇所、交換箇所を申告せずに隠して中古車を売却すると契約不適合責任に問われて、売買契約の解除や損害賠償請求に発展する可能性があります。そういったトラブルが起きないために、車の状態をチェックしたり書類関係を確認しておきましょう。
車の状態、動作を確認しておく
車を査定してもらう際には査定に関わるような箇所を事前にチェックしておきましょう。といっても車のチェック箇所はとても多いので、まずは素人でも確認ができそうな箇所だけチェックリスト的に確認しておく程度で大丈夫です。
査定前のチェック箇所
内装・外装の車両状態
- ボディ外装にキズや凹みはないか
- ドアやトランクはスムーズに開閉できるか
- 塗装の色ハゲや日焼けはないか
- シートにシミや破れはないか
- ハンドルのハゲ、損傷はないか
- テールライト、ウィンカー、ナンバー灯などの球切れがないか
- メーターは正常に動いているか
エンジン・駆動系の走行性能
- エンジンは一発でかかるか
- スムーズにエンジンは吹け上がるか
- 走行時にガクガクとショックを感じることはないか
- 走行時に変な音がすることはないか
- 段差を走った時に変な衝撃音がしないか
- タイヤの溝は十分に残っているか、スリップサインが出ていないか
書類関連の確認
- 自動車検査証(車検証)
- 自賠責保険証明書
- 自動車税納税証明書
- 自動車リサイクル券
整備手帳(メンテナンスノート)を準備
車にはメンテナンスノートと呼ばれる整備履歴が記載されたものがあります。点検整備記録簿とメーカー保証書が一緒になっているもので、通常は車検証等の書類と一緒に助手席のグローブボックスに保管されています。
車のメンテナンスノートにはエンジンオイル、ブレーキパッド、駆動系部品等の交換履歴が記載されています。法定点検で交換されるような主要部品に対して、状態や交換履歴が時系列に記載されるものなので、その車の状態を確認できる書類となります。また、部品の交換履歴を確認できるだけではなく、車の整備状態が確認できる書類であるため、しっかりとメンテナンスされていた車かどうかを判断するのにも役立ちます。
メンテナンスノートがあると、査定スタッフの方もスムーズに査定ができるので用意しておきましょう。
売却後に不具合箇所が見つかったらどうなるのか
買取査定前に車に故障箇所や不具合箇所がないか確認することはもちろん重要なのですが、もしかするとその時に見落としたポイントが売買後に見つかることもあるでしょう。意図的に隠していた場合はもちろんですが、本当に気づかずに売却してしまうケースも考えられます。
意図的に隠していたか本当に気付いていなかったかは問わず、売買契約後に不具合箇所が発覚すると
- 売買契約の解除(売れない)
- 再査定による減額
- 買取金額の返還(一部、もしくは全額)
- 悪質な場合は訴訟を起こされ裁判になる
という可能性があります。必ずこのような措置を取られるというわけではありませんが、売却後に不具合箇所が見つかると買取業者の損失が発生するため、その損失を埋めるような行為が必要になるでしょう。
売買契約の解除
売買契約後に車の不具合が見つかった場合、売買契約そのものが破棄される可能性があります。これは多くの場合、売買契約の注意事項としても記載されている項目なので、買取店から売買契約解除を言い渡されたら従うしかありません。
契約解除となった場合、その車の買取金額を返金して車があなたのものに戻ります。状態としては売買契約が無くなっただけなので、改めて故障箇所を含めた買取査定をしてもらったり、別の買取店へ持ち込んだりすることは可能です。
売却時に気付かなかった不具合が見つかったというケースでは売買契約の解除だけで済むことも多いですが、もし意図的に不具合を隠蔽していたような場合には契約解除だけでは済まないトラブルに発展します。
再査定による減額
査定の際に不具合が見つからず、買取後に不具合が見つかった場合には再査定が行われる可能性があります。査定の際にスタッフが確認出来ていなかった不具合箇所、故障箇所をもう一度確認して査定し直すのです。
問題点を見つけられなかった査定スタッフのミスなのに、再査定されるの?
と不思議に思われるかもしれませんが、ほとんどのケースでその旨は売買契約書に記載されています。「買取後に不具合が見つかった場合に再査定を要求する」という記載があれば、契約に同意しているわけなので再査定を拒否することはできません。
売主であるあなたが認識しておらず、査定スタッフも見逃してしまったような不具合の場合、そこまで大きなマイナス査定にはならないはずです。査定時に見つけられなかったという落ち度もあるため、大幅な買取額減額はないでしょう。ただ、不具合が発生していることには変わりないため、査定額が多少下がることは覚悟しておきましょう。
もし、売主であるあなたが不具合箇所を隠して査定してもらっていた場合、大幅なマイナス査定を受ける可能性があります。これは基準が難しいポイントですが、「査定額が下がることを恐れて不具合を隠蔽した」と判断されてしまうと、減額だけではなく損害賠償請求など大きなトラブルに発展する可能性もあります。
買取金額の返還
最初からあなたが気付かなかった不具合の場合には再査定でもう一度買取査定してくれる可能性がありますが、もし不具合を意図的に隠蔽していた場合には買取金額の返還を求められるケースがあります。
ボディの軽いキズや内装の汚れ、ちょっとした不具合程度であれば買取金額返還は求められないか、請求されてもそこまで大きな金額ではないでしょう。ただし、もし修復歴を隠していたような場合には多額の買取金額返還を求められる可能性があります。
修復歴は車の骨格部分を損傷、修復している履歴なので、車そのものの機能を左右する要素です。修復歴ありの車と修復歴なしの車では買取金額に2倍以上の開きが出ることも珍しくありません。その修復歴を隠して買取に出していたとすると、買取金額の一部ではなく全額返還を求められる可能性も十分にあります。
しかし、残念なことに悪質な買取業者が契約を捻じ曲げて買取金額の返還を求めてくることもあるようです。売主としては不具合箇所を申告していたのに、売買契約後に不具合を指摘し「このような不具合箇所は聞いていなかった」と言って買取金額の返還を求める業者がいるようです。車を買取査定に出す時には、信頼できる買取業者に依頼する事はもちろん、売買契約書に記載されている内容はしっかり確認しましょう。
訴訟を起こされ裁判になることも
車の不具合を隠して買取に出していると、買取店から訴訟されて裁判になる可能性もあります。特に
- 修復歴の有無
- エンジンの不調
- 駆動系部品の不調
など走行に支障を来たすような不具合を隠していると、契約不適合責任に問われて裁判になるケースがあります。そうなると裁判で勝訴するのはほぼ不可能なので、多額の損害賠償を支払わなければいけません。
あなた自信が不具合を隠して買取に出していたのなら、訴えられて裁判になるのもしょうがないかもしれません。しかし中には自分が車を中古で購入した時にすでに修復歴が隠されている可能性もあります。あなたはそれを知らずに買取店に売却したとして、買取店で修復歴があったことが判明した場合に訴えられるのはあなたです。あなた自信が知らなくても、修復歴のある車を修復歴無しとして売却してしまったのはあなたなので、あなたに落ち度があると判断されてしまいます。
このようなトラブルにならないためにも、中古車は買う時も売る時も信頼できる業者を選ぶのが重要です。
トラブルにならないように売買契約書の内容を確認する
契約不適合責任に問われないようにするためには事前準備をすることも大事ですが、売買契約書そのものをしっかりと確認することも重要です。契約書は細かい文字がたくさん書かれていて拒絶反応がある人もいるかもしれませんが、最低限確認すべき事項をピックアップしておきます。
売買契約書で確認すべき事項
- 記載されている買取車種、グレード、年式等に間違いはないか
- 不具合箇所がある場合、明確に記載されているか
- 売却金額は間違いないか
- 金額内訳に自動車税、自賠責保険料などの還付金は記載されているか
- 査定手数料などの手数料は事前条件通りか
- 売却金額の補償期限は記載されているか
- 売却車両の引き渡し日は記載されているか
- 引き渡し方法は(場所等)記載されているか
- 契約不適合責任を負う期間は記載されているか
- キャンセル料など契約後の契約破棄に伴う費用は発生するのか
以上の点を確認することによって最低限の売買契約が把握できます。手数料、還付金など売却車両価格以外にも発生するお金はいくつかあります。また、その売却金額がいつまで有効なのかが記載されている場合もあるため注意が必要です。
それ以外にも気になる点があれば査定スタッフに口頭で確認しつつ、契約書に追記してもらうようにしましょう。時間がない中で売却を急いでいたとしても、売買契約は一番重要なポイントになるためしっかりと確認して納得した上で合意署名しましょう。